花組公演『虞美人』-新たなる伝説-を見てきました。
簡単な感想をメモしておこうと思いつつできなかったのに、新人公演も見てしまいました。今回も、事前情報はあまり調べずに、感想なども読まずに観劇。

新人公演は、それぞれの役がまったく違うアプローチで作られていて、かなり印象の違うお芝居になっていました。
一言で言うなら、壮大な「中国歴史英雄譚」である本公演に対して、激動の時代に生きた人々の「人間ドラマ」だった新人公演、というイメージでした。
「大王四神紀」の新人公演もそういった部分がありましたが、やはり壮大なスケール感というのは、経験値によるものが大きいのでしょうね。
そのぶんキメ細やかな人間ドラマに絞って、”大きさ”よりも”深さ”を追求した今回の新公は、成功だったと思います。
しかし、花組生の充実は本当に素晴らしいですね。本公演は勿論、新人公演もここまでレベルの高い舞台が見られるとは。
かなりの下級生でも、ハジからハジまで何処を見ても、本当に皆さん上手い。そして、美しい!男役はカッコよく娘役は可愛らしく、みんなキラキラしていて、ときめいて見ていられました。

そして本公演を見ている時には、私的にはどうにもノリきれなかったこの公演が、新公の”人間ドラマ”を見て、かなり納得できる部分がありました。
納得したといっても、本公演とはまるでアプローチが違う解釈ですが。
本公演と新公の一番の違いは、主人公・項羽と、タイトルロール「虞美人」のありかただと思います。
新公・項羽の鳳真由ちゃんは、ずっと線が細く幼い、丸顔の男役さんというイメージだったのですが、今回の項羽はそのイメージを覆してくれました。真っ直ぐでおおらかな、力強い芝居。正しく誠実な、真っ直ぐに強い心を舞台にぶつけるような芝居が、項羽の姿に重なって、輝くばかりの英雄ぶりでした。今まで、ちょっと喉に詰まるような喋り方だったのが、声がまっすぐに前に出ていてストレートに台詞が伝わったのも、すごく良かったと思います。
やはり若さは感じるものの、それも理想を追う若き英雄の姿として見せて、好印象。こういう”真ん中の男役”を、次々と輩出できるところが、花組の強みですよね。
本公演の真飛さんの項羽は、英雄の苛烈なまでの正しき生き様を強調しているような印象でしたが、真由ちゃんの項羽はあまり苛烈とも激しいとも思わなかった。技術的な面も勿論あると思いますが、理想を追う姿に”ロマン”のようなものを感じたから。項羽は彼なりの夢を追う為に戦っている、という解釈なのかな~と思ったのですが、どうでしょう?まあ、真ん中の戦いの場面がカットされた事も大きいと思いますが。

そして、私的に大ヒットだったのが、天咲 千華ちゃんの虞美人。すごく印象的だったのが、冒頭、項羽が会いに来たときの場面。
項羽が斬られたと聞いて初めて、この男を愛するという事、武人の妻になるという事が、今後ずっと愛する人の無事を心配しながら待たなければならない事だと、理解していく姿でした。たとえ知人が(どういう関係だったのか謎ですが^^;)殺されたとしても、その死を悼むよりも何よりも、項羽が無事だった深い喜びが勝る事。
新婚初夜を待っていた若い娘には、ちょっと重過ぎる状況です。その心の揺れを本当に魅力的に見せてくれて、もうグッと心を掴まれましたね。
そして彼女は、自分の為に項羽の命を危うくした事の辛さ、自分の心を疑われた怒りと悲しみ…それらを全て受けとめる為に、命を懸ける覚悟を、する。
冒頭のこの場面がラストシーンに繋がるんだーと思った事で、この作品世界が一気に見えた気がしました。こんな話だったんだ、「虞美人」。
この時彼女は決意する。「二度と自分の為に、項羽の身を危うくする事はできない。勿論、他の男に触れられる事も無い」それが、新人公演版「虞美人」なんだと思いました。
あまちゃき虞美人は本当に健気で、まっすぐ。鳳真由ちゃんも、真っ直ぐで誠実で、そして二人とも情があって芝居が優しくて、なかなか良いコンビでしたね。初主演のまゆちゃん、経験豊富なあまちゃきが相手役で本当に幸運だったと思います。力強いサポートで、二人の舞台世界を作れたんじゃないかな。
虞が命を絶った後の項羽の芝居は、本当に良かったです。彼女の想いも分かった上で、彼なりに「強く」戦う姿にじーんときました。最期の場面の、「やっと」というホッとした風情も良かった。ラストのカタルシスをきっちり見せたのは、新公初主演としては「今後に期待させる出来」だったのではないかと思います。

あまちゃき虞美人で忘れてならないのが、もう一つの見せ場。呂夫人との「奥様対決」でした。梅咲 衣舞ちゃんの呂は、劉邦の死の場面から始まる本公演とは違って、怖くはない普通の女性。
強い信念と劉邦への愛を持ってはいるけれど、怖れも弱さも持ち、それを乗り越えて生きている。そんなリアルな血の通った女性像を、抑えた芝居でくっきり見せてくれました。本公演の「魍魎跋扈」という対決より、ちょっとトーンダウンした印象ではありますが^^;
ここでは桃娘も韓信の妻としていますから、立場も考え方も違う、三人の武将の妻を対比させつつ、戦乱の世の中の女性達の悲しみを表現して、新公レベルを超えた素晴らしい場面になったと思います。衣舞ちゃん、上手い事は十分に知っておりましたが、今まであまり活躍の場を与えられなかったので、ここまで上手かったのか…と感心しました。

そして、もう一人のタイトルロール、劉邦は瀬戸 かずや君。こちらも良かったですねー。
やはり、大柄でカッコいいし、線の細い夢見る項羽に対して、骨太でリアル感のあるアキラ劉邦の対比が面白かったです。
わりと本役の壮君と似たイメージの役作りではありましたが、もっと大らかで素朴な印象。壮君の劉邦はあまりにキレイで、畑を耕す姿は想像できないけれど、アキラ君はいつでも畑に戻れそう^^;そんな所が民衆に愛され、そのこだわりの無さが逆に、身一つでいくらでも這い上がれる劉邦の強さに繋がるんだなーと、納得。
「私は誰も愛していない」と嘆いても、本当の心の底には愛情が溢れている印象でした。今まではただ、自分の事を優先しただけ…これからは、もっと周りの皆にも気を使うから、みたいな。その優しさが、本公演に比べるとスケールダウンする所なのかもしれませんが、やはり愛しい劉邦でした。

さて、二組の夫婦について書いたところで、時間切れです。
桃娘の実咲 凜音ちゃんが、上手くて舞台度胸満点でかなり印象に残りました。幕間コントも可愛かったし…他にも、印象に残って書きたい人々はいますが、今日はこのへんで。

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