イルザの想い~カサブランカ その6~
2010年2月13日 宙組宙組 公演『シャングリラ -水之城-』 の集合日が過ぎました。
配役も発表されましたね。…さっぱり何も、想像できないけど^^;
名前の印象から、よりライトノベル感を増したなー、くらい?いったい、どういう作品になるのか。カフェブレイクでのらんとむさんの情報で、エンターテイメントというお話をきいて、より心もとない気分になったり。
ともかく、漫画大好き小柳先生がどのへんから持ってくるのか。
先日放送された「NAKID CITY」を見たら、吉野朔実「HAPPY AGE」他の禁酒法時代アメリカものの設定を色々継ぎはぎして出来ていた事を確認。
そして、ヒロインの設定は藤田和子・氷室冴子「ライジング!」の劇中劇「メリィ・ティナ」のヒロイン、ティナ・アリスンの設定と台詞を丸ごとそのまま使用。
今度は、どんな漫画から持ってくるのかな?
そして、退団者がお一人。笹良えるさん。
特別公演だと組の半分のメンバーとしかお別れができないのが、ちょっと淋しいですが。でも出演者の少ない公演だからこそ、全員を見る事ができる筈。この公演を最後まで楽しんで、幸せに、新しい道に旅立って欲しいと願っています。
さて、新しい作品は動き出していますが、私はまだ「カサブランカ」の世界にぼんやりしています。
沢山の感想なども検索して読ませていただいておりまして。こうやって、ブログで沢山の方々の思いを読めるなんて、良い時代になったなーと思います。
色々読んで、私はやはり少数派らしい事もわかりました^^;
こんなふうに感じる人間は、もしかしたら、この世に私一人なのかも…と思いつつ。できる限り書き綴っていきたいと思います。
タカラヅカファンとして、ついつい反応してしまうのが「地下新聞」という言葉。反射的に頭の中に「あなたが出してる地下新聞♪」というフレーズが浮かびます。体の中に名作の曲が沁みついて、様々な場面で頭に浮かびますよね。
そして、このラズロさんを見ていると、思い浮かぶ曲がありまして。この作品にあわせて替え歌で書きますと
「英雄は自分の為にあらず 理想と戦いの為生きる 険しい道をあゆむもの
妻となる人にも等しく重荷が待っている それでも君が・・・」
…フランツ・ヨーゼフ一世陛下のプロポーズの場面です。
ヴィクター・ラズロ氏がイルザにプロポーズした時、同志と呼ばれていた彼女は、どれ程の誇らしさにときめいたかと思うのです。
若く純粋で、理想の社会の実現を夢見てていた娘にとって、ヴィクター・ラズロはその理想を体現した、美しく煌めく世界そのもののように見えた事でしょう。
その彼にプロポーズされた時、若くハンサムな皇帝陛下に求婚されたシシィと同じくらい、非現実的な夢のような瞬間だったのではないかと。
レジスタンスという狭い人間関係の中、みんなが憧れるヒーローに、イルザも同じように憧れて「それを愛だと思った」のでしょう。
でも、少女が夢に描く「いつか王子様が」幻想が叶ってしまうのは、もしかしたら不運なことだったのかもしれない。
それは幻想であって、現実の恋愛がどういうものかを知らないまま、彼女は英雄からのプロポーズを受け入れた。
今回の舞台ではカットされていますが、映画では「ヴィクターがチェコに戻ったのは、結婚して間もなくの事だった」となっています。そして、そこにはゲシュタポが待っていて、収容所に送られた。二人が夫婦として過ごしたのは、ごく短い期間だったのです。もしかしたら、リックとイルザがパリで過ごした期間より短いかもしれません。
そのうえ周りにも秘密の結婚ですから、普通の恋人のような時間はあまり無かった筈。
逆に映画では、リックとイルザのパリでの時間は明確に語られません。何故、春から6月という期間が明示され、ラズロとの期間が削られたのか、謎。どなたか想像がつくかた、教えて欲しい…。
ともかく、チェコに戻ってすぐにラズロは捕らえられ「収容所に一年以上いた」。
という事は、イルザが彼の訃報を受け取ったのは、おそらく収容所に入れられた報せを受けてから、一年程は過ぎた頃かと思います。
一年間、彼女はラズロを心配して過ごしていた。希望と絶望が入り混じった、長く辛い時間。彼女は、やはり少しずつ諦めていたのではないかなーとも思います。自分の心を守る為に。
彼女に手紙を届けるカレル役の蒼羽りく君、大劇場ではイルザが店に入ってくるまでイライラした風情で待っていたのが、東京に来てから呆然とした様子になったのが良かったですね。その様子で、英雄を喪った人々の喪失感が見えて、イルザの心情も納得しやすくなりました。
イルザはその決定的な報せを受け取って、気を失いかけ、リックと出会う。
その時彼女が喪ったのは、夢と理想に輝いた世界そのもの。おそらくは、輝く少女時代、青春の終わりの瞬間だったのでしょう。
そんなギリギリの張り詰めた瞬間に出逢ったリックは、その命が燃え上がるような姿を目にして、彼女に惹かれて恋に落ちる。
リックもまた、心の傷を抱いてパリを彷徨う外国人。
多くの仲間の死を見つめて、自分の行いを悔いて悔やんで…心を誤魔化す為に享楽的に虚無的に過ごしている。
夫や父を亡くした女子供を沢山つくった負い目のあるリックにとって、悲嘆にくれるイルザは見捨ててはおけない存在なんですよね。悲しみの原因は分からなくても、その心を癒す事が、リック自身を救うことにもなる。
彼はひたすらにイルザを癒す事で救われるけど、おそらく、イルザにはそんな影は見せなかったのでしょう。
彼女はリックの優しさに包まれ、やがて穏かに笑えるようになる。
二人だけの時間を過ごし、女として愛される事を知って。
憧れの人を、思い切る。
一年間、緩やかに終わりに向かっていた憧れの人との幼い恋を完全に諦めて、現実に自分を求める男に身を任せる。
赤いドレスに着替えたイルザと踊るリックの場面が好きです。
「月夜のラヴ・ソング 酔いしれて 熱いパッション
ジェラシーさえ 女と男を結ぶ絆になる」
サムの歌声そのままに、ジェラシーにジリジリするリックの姿が可愛くてねー。こんな姿を見せてくれて、小池先生ありがとう!と、いつも思ってました(^^ゞ
すみ花ちゃんのイルザは本当に不器用で、リックと一緒にいても、過去に誰かがいた事を隠す事はできなかっただろうと思います。
祐飛リックの様子から、二人はそういう仲になったばかり。自分が彼女にとっての初めての男じゃなかったと、確認したところかな。
イルザも相手がそれを気にする事は承知で身を任せたのだから、自分から恋人がいた事を切り出す。なんとも色っぽい場面ですよね。
そしてリックは「過去は聞かない」と答える。
過去を無かった事にするという事ではなく、過去の心の傷ごと受け入れ、抱きしめるから。その過去が今の彼女を作るものなら、聞かなくても、今の彼女がいればいい。
やがてナチスから逃れ、パリを出る時に、二人は共に生きる決意をする。
イルザは「10年前歯にブリッジをしていたわ」という、キュートな台詞を言える人。
22~24歳くらい?お金をかけても、娘の歯並びは美しくなければならないという価値観の家に育った人。フランス語も当然の教養として習っていたような、上流階級のお嬢さんでしょう。まあ「身持ちの堅い女性」ですね。
そのうえ、すみ花ちゃんのイルザは、とっても世間知らずな感じ。
遊びの恋なんてありえないし、二人の男と同時に付き合う事も考えられない。
だから、リックを愛した時には、ラズロの事は完全に思い切っていると思うのです。
リックも、イルザが彼の愛を受け入れた時に、彼女に大きな覚悟が必要だったと知っている。だから結婚という生涯の誓いをたてようと言うのも、自然な流れなのですね。
でもラズロが生きているという報せを受けた時、彼女は迷わずリックと別れる事を選びます。
例え短い間でも、周りの人に秘密でも、「神様の前で、永遠の愛を誓った」から。
病めるときも健やかなる時も…と。彼を見捨てる事など、できる筈がない。
今は、愛する人が別にいるけれど。
死んだと思っていた人が無事だった事は嬉しいけれど、リックとの別れは、どんなに辛い事か。ラズロの無事を丸ごと喜べないのも、辛い事だけれど。
失う時になって、彼女は自分の真実に気付いた。
本当に愛するという事がどういうことか。
彼女はリックに「たった一つの真実」を告げて「この世界で最後のキス」を、乞う。
リックを愛した時、彼女はラズロへの想いが幼い憧れだという事を知った。それでも、ラズロの妻として生活に彼女は戻ったんですね。
一度思い切った恋はもう戻らないけれど、傷ついた英雄を支える事はできる。
もうラズロにトキメキは求めないけれど、ただ、優しさを与える事ならできる。
でも、不器用なすみ花ちゃんのイルザは、ラズロ氏にも心の変化を隠す事は出来なかったのではないかと思うのです。
だからカフェでリックと再会したイルザを見た瞬間に、二人に何があったか、ラズロにはほぼ正確に分かってしまったのではないかと思います。
そして、イルザがラズロを紹介した時に、リックもイルザの行動の意味を、全て察することができた。
もしも再会した時、イルザにリックへの愛が感じられなかったら、リックは酔っても「彼女は必ず来る」とは言えなかったでしょうし、彼女にあれだけの意地悪を言う事もできなかったと思うのです。
大空ファンのドリームなのかもしれませんが、リックはとてもプライドが高いから。彼女の心がもう自分に向いてないのに、彼女を責めるなんて、みっともない事はしない…と、思いたい^^;
状況によって別れただけで、まだ自分と同様に彼女にも愛が残っている事がわかったから。彼女がラズロに向ける視線が、自分と過ごした時のような熱を持っていない事にも気付いたから、あれだけ激しい想いをぶつけたのだと思います。
イルザはパリではひたすらに優しかったリックなら、事情を説明すれば彼が分かってくれると思って店に来たのでしょう。
でも、事情がわかるのと、彼の愛とは別の問題。
二人の男を愛せるなら、まだ他の男もいたのか?と、つっかかる。イルザがそんな女じゃない事は、分かっているけど。
そしてパリでは見せなかった激しさでイルザを責めるリックに、彼女は初めて、彼がどれ程深く自分を求めていたのかを理解する。
…彼を、愛しているから。
パリでの優しい日々の中、リックが過去に心の傷を抱いていた事は、なんとなく気付いていたとは思います。
悪夢でうなされた後に「戦場の記憶が…」という言葉を聞いても動揺を見せないという事は、カレル達チェコのレジスタンス側でリックの過去について調べていたのでしょう。カレルはセザールが店に入って来たときからさりげなくチェックしていますし、チェコ陣営はセザールを通じて武器の調達をしているのですし。
また、警察にマークされているリックは危険人物ですから、イルザへ警告があってもおかしくないですものね。
でも、自分の事に必死だったイルザは、リックの大人の優しさの裏に深い孤独と傷がある事を、それ故に深く彼女を求めている事をあまり分かってなかった。
ま、若い女の子なんて、そんなものですよね。子供扱いされるのは嫌だけど、自分がどれくらい甘やかされているのか、わからないもの。
リックもそれでいいと思っていたのでしょう、彼女が傍にいてさえくれたら…。
この場面の二人の会話は、毎回日替わりで、いつもすごい緊張感でした。
宝塚オリジナルではないだけに、普通は有り得ないような、主役とヒロインの怒鳴り合い^^;
最初の頃は、イルザを傷つけようという意思が見えていたリック、次第に、ただ、自分の心をぶつける芝居になっていったと思います。
こんなふうに心をぶつけてくる男性像って、なかなか表現できるものじゃないと思うなぁ。
本当に、なんて愛しい男なんでしょう。
そして自分を失う事で、あんなにもダメージを受けた男を見て、平気でいられる女なんてウソだ!と思って見ていました^^;
優しい愛の場面よりも、拗ねていじけた姿を見せるほうが、愛の深さが見える…という大空祐飛の個性、活かしまくりです。
でも、かつてスコットがゼルダに見せたような「相手を傷つける事で、自分がもっと傷つく」という印象を受けなかったのも、面白いところでした。
映画の雰囲気を意識したのか、単に過去の演技との重複を避けたのか、リックは全然そういうキャラじゃないのか?ちょっと判別が付かなかったですけど。
イルザは大劇場の初期の頃は、リックの意地悪に傷ついて走り去るという芝居だったと思うのですが、東京で気付いた時には変わっていました。
リックの愛と傷の深さ、自分のした事の意味を知ったイルザ、という芝居に変えてくれて。すみ花ちゃん、ありがとう!と思いました。やっぱり、リックの心が伝わってなければ、可哀想ですもの。
それから翌日のバザールの場面にも変化がありましたね。「ごめんなさい、正直に全て話すべきだった」という台詞に、リックの傷の深さに対する申し訳なさのようなものが、どんどん深くなっていたように思います。こんなふうに、お互いの芝居が深まる程に、その変化に対応して変わっていけるコンビ、やはり奇跡の出会いかもしれません。
さて、長くなったのでこれくらいで…。
あと、どのくらい続くのか、不明ですが(^^ゞ
配役も発表されましたね。…さっぱり何も、想像できないけど^^;
名前の印象から、よりライトノベル感を増したなー、くらい?いったい、どういう作品になるのか。カフェブレイクでのらんとむさんの情報で、エンターテイメントというお話をきいて、より心もとない気分になったり。
ともかく、漫画大好き小柳先生がどのへんから持ってくるのか。
先日放送された「NAKID CITY」を見たら、吉野朔実「HAPPY AGE」他の禁酒法時代アメリカものの設定を色々継ぎはぎして出来ていた事を確認。
そして、ヒロインの設定は藤田和子・氷室冴子「ライジング!」の劇中劇「メリィ・ティナ」のヒロイン、ティナ・アリスンの設定と台詞を丸ごとそのまま使用。
今度は、どんな漫画から持ってくるのかな?
そして、退団者がお一人。笹良えるさん。
特別公演だと組の半分のメンバーとしかお別れができないのが、ちょっと淋しいですが。でも出演者の少ない公演だからこそ、全員を見る事ができる筈。この公演を最後まで楽しんで、幸せに、新しい道に旅立って欲しいと願っています。
さて、新しい作品は動き出していますが、私はまだ「カサブランカ」の世界にぼんやりしています。
沢山の感想なども検索して読ませていただいておりまして。こうやって、ブログで沢山の方々の思いを読めるなんて、良い時代になったなーと思います。
色々読んで、私はやはり少数派らしい事もわかりました^^;
こんなふうに感じる人間は、もしかしたら、この世に私一人なのかも…と思いつつ。できる限り書き綴っていきたいと思います。
タカラヅカファンとして、ついつい反応してしまうのが「地下新聞」という言葉。反射的に頭の中に「あなたが出してる地下新聞♪」というフレーズが浮かびます。体の中に名作の曲が沁みついて、様々な場面で頭に浮かびますよね。
そして、このラズロさんを見ていると、思い浮かぶ曲がありまして。この作品にあわせて替え歌で書きますと
「英雄は自分の為にあらず 理想と戦いの為生きる 険しい道をあゆむもの
妻となる人にも等しく重荷が待っている それでも君が・・・」
…フランツ・ヨーゼフ一世陛下のプロポーズの場面です。
ヴィクター・ラズロ氏がイルザにプロポーズした時、同志と呼ばれていた彼女は、どれ程の誇らしさにときめいたかと思うのです。
若く純粋で、理想の社会の実現を夢見てていた娘にとって、ヴィクター・ラズロはその理想を体現した、美しく煌めく世界そのもののように見えた事でしょう。
その彼にプロポーズされた時、若くハンサムな皇帝陛下に求婚されたシシィと同じくらい、非現実的な夢のような瞬間だったのではないかと。
レジスタンスという狭い人間関係の中、みんなが憧れるヒーローに、イルザも同じように憧れて「それを愛だと思った」のでしょう。
でも、少女が夢に描く「いつか王子様が」幻想が叶ってしまうのは、もしかしたら不運なことだったのかもしれない。
それは幻想であって、現実の恋愛がどういうものかを知らないまま、彼女は英雄からのプロポーズを受け入れた。
今回の舞台ではカットされていますが、映画では「ヴィクターがチェコに戻ったのは、結婚して間もなくの事だった」となっています。そして、そこにはゲシュタポが待っていて、収容所に送られた。二人が夫婦として過ごしたのは、ごく短い期間だったのです。もしかしたら、リックとイルザがパリで過ごした期間より短いかもしれません。
そのうえ周りにも秘密の結婚ですから、普通の恋人のような時間はあまり無かった筈。
逆に映画では、リックとイルザのパリでの時間は明確に語られません。何故、春から6月という期間が明示され、ラズロとの期間が削られたのか、謎。どなたか想像がつくかた、教えて欲しい…。
ともかく、チェコに戻ってすぐにラズロは捕らえられ「収容所に一年以上いた」。
という事は、イルザが彼の訃報を受け取ったのは、おそらく収容所に入れられた報せを受けてから、一年程は過ぎた頃かと思います。
一年間、彼女はラズロを心配して過ごしていた。希望と絶望が入り混じった、長く辛い時間。彼女は、やはり少しずつ諦めていたのではないかなーとも思います。自分の心を守る為に。
彼女に手紙を届けるカレル役の蒼羽りく君、大劇場ではイルザが店に入ってくるまでイライラした風情で待っていたのが、東京に来てから呆然とした様子になったのが良かったですね。その様子で、英雄を喪った人々の喪失感が見えて、イルザの心情も納得しやすくなりました。
イルザはその決定的な報せを受け取って、気を失いかけ、リックと出会う。
その時彼女が喪ったのは、夢と理想に輝いた世界そのもの。おそらくは、輝く少女時代、青春の終わりの瞬間だったのでしょう。
そんなギリギリの張り詰めた瞬間に出逢ったリックは、その命が燃え上がるような姿を目にして、彼女に惹かれて恋に落ちる。
リックもまた、心の傷を抱いてパリを彷徨う外国人。
多くの仲間の死を見つめて、自分の行いを悔いて悔やんで…心を誤魔化す為に享楽的に虚無的に過ごしている。
夫や父を亡くした女子供を沢山つくった負い目のあるリックにとって、悲嘆にくれるイルザは見捨ててはおけない存在なんですよね。悲しみの原因は分からなくても、その心を癒す事が、リック自身を救うことにもなる。
彼はひたすらにイルザを癒す事で救われるけど、おそらく、イルザにはそんな影は見せなかったのでしょう。
彼女はリックの優しさに包まれ、やがて穏かに笑えるようになる。
二人だけの時間を過ごし、女として愛される事を知って。
憧れの人を、思い切る。
一年間、緩やかに終わりに向かっていた憧れの人との幼い恋を完全に諦めて、現実に自分を求める男に身を任せる。
赤いドレスに着替えたイルザと踊るリックの場面が好きです。
「月夜のラヴ・ソング 酔いしれて 熱いパッション
ジェラシーさえ 女と男を結ぶ絆になる」
サムの歌声そのままに、ジェラシーにジリジリするリックの姿が可愛くてねー。こんな姿を見せてくれて、小池先生ありがとう!と、いつも思ってました(^^ゞ
すみ花ちゃんのイルザは本当に不器用で、リックと一緒にいても、過去に誰かがいた事を隠す事はできなかっただろうと思います。
祐飛リックの様子から、二人はそういう仲になったばかり。自分が彼女にとっての初めての男じゃなかったと、確認したところかな。
イルザも相手がそれを気にする事は承知で身を任せたのだから、自分から恋人がいた事を切り出す。なんとも色っぽい場面ですよね。
そしてリックは「過去は聞かない」と答える。
過去を無かった事にするという事ではなく、過去の心の傷ごと受け入れ、抱きしめるから。その過去が今の彼女を作るものなら、聞かなくても、今の彼女がいればいい。
やがてナチスから逃れ、パリを出る時に、二人は共に生きる決意をする。
イルザは「10年前歯にブリッジをしていたわ」という、キュートな台詞を言える人。
22~24歳くらい?お金をかけても、娘の歯並びは美しくなければならないという価値観の家に育った人。フランス語も当然の教養として習っていたような、上流階級のお嬢さんでしょう。まあ「身持ちの堅い女性」ですね。
そのうえ、すみ花ちゃんのイルザは、とっても世間知らずな感じ。
遊びの恋なんてありえないし、二人の男と同時に付き合う事も考えられない。
だから、リックを愛した時には、ラズロの事は完全に思い切っていると思うのです。
リックも、イルザが彼の愛を受け入れた時に、彼女に大きな覚悟が必要だったと知っている。だから結婚という生涯の誓いをたてようと言うのも、自然な流れなのですね。
でもラズロが生きているという報せを受けた時、彼女は迷わずリックと別れる事を選びます。
例え短い間でも、周りの人に秘密でも、「神様の前で、永遠の愛を誓った」から。
病めるときも健やかなる時も…と。彼を見捨てる事など、できる筈がない。
今は、愛する人が別にいるけれど。
死んだと思っていた人が無事だった事は嬉しいけれど、リックとの別れは、どんなに辛い事か。ラズロの無事を丸ごと喜べないのも、辛い事だけれど。
失う時になって、彼女は自分の真実に気付いた。
本当に愛するという事がどういうことか。
彼女はリックに「たった一つの真実」を告げて「この世界で最後のキス」を、乞う。
リックを愛した時、彼女はラズロへの想いが幼い憧れだという事を知った。それでも、ラズロの妻として生活に彼女は戻ったんですね。
一度思い切った恋はもう戻らないけれど、傷ついた英雄を支える事はできる。
もうラズロにトキメキは求めないけれど、ただ、優しさを与える事ならできる。
でも、不器用なすみ花ちゃんのイルザは、ラズロ氏にも心の変化を隠す事は出来なかったのではないかと思うのです。
だからカフェでリックと再会したイルザを見た瞬間に、二人に何があったか、ラズロにはほぼ正確に分かってしまったのではないかと思います。
そして、イルザがラズロを紹介した時に、リックもイルザの行動の意味を、全て察することができた。
もしも再会した時、イルザにリックへの愛が感じられなかったら、リックは酔っても「彼女は必ず来る」とは言えなかったでしょうし、彼女にあれだけの意地悪を言う事もできなかったと思うのです。
大空ファンのドリームなのかもしれませんが、リックはとてもプライドが高いから。彼女の心がもう自分に向いてないのに、彼女を責めるなんて、みっともない事はしない…と、思いたい^^;
状況によって別れただけで、まだ自分と同様に彼女にも愛が残っている事がわかったから。彼女がラズロに向ける視線が、自分と過ごした時のような熱を持っていない事にも気付いたから、あれだけ激しい想いをぶつけたのだと思います。
イルザはパリではひたすらに優しかったリックなら、事情を説明すれば彼が分かってくれると思って店に来たのでしょう。
でも、事情がわかるのと、彼の愛とは別の問題。
二人の男を愛せるなら、まだ他の男もいたのか?と、つっかかる。イルザがそんな女じゃない事は、分かっているけど。
そしてパリでは見せなかった激しさでイルザを責めるリックに、彼女は初めて、彼がどれ程深く自分を求めていたのかを理解する。
…彼を、愛しているから。
パリでの優しい日々の中、リックが過去に心の傷を抱いていた事は、なんとなく気付いていたとは思います。
悪夢でうなされた後に「戦場の記憶が…」という言葉を聞いても動揺を見せないという事は、カレル達チェコのレジスタンス側でリックの過去について調べていたのでしょう。カレルはセザールが店に入って来たときからさりげなくチェックしていますし、チェコ陣営はセザールを通じて武器の調達をしているのですし。
また、警察にマークされているリックは危険人物ですから、イルザへ警告があってもおかしくないですものね。
でも、自分の事に必死だったイルザは、リックの大人の優しさの裏に深い孤独と傷がある事を、それ故に深く彼女を求めている事をあまり分かってなかった。
ま、若い女の子なんて、そんなものですよね。子供扱いされるのは嫌だけど、自分がどれくらい甘やかされているのか、わからないもの。
リックもそれでいいと思っていたのでしょう、彼女が傍にいてさえくれたら…。
この場面の二人の会話は、毎回日替わりで、いつもすごい緊張感でした。
宝塚オリジナルではないだけに、普通は有り得ないような、主役とヒロインの怒鳴り合い^^;
最初の頃は、イルザを傷つけようという意思が見えていたリック、次第に、ただ、自分の心をぶつける芝居になっていったと思います。
こんなふうに心をぶつけてくる男性像って、なかなか表現できるものじゃないと思うなぁ。
本当に、なんて愛しい男なんでしょう。
そして自分を失う事で、あんなにもダメージを受けた男を見て、平気でいられる女なんてウソだ!と思って見ていました^^;
優しい愛の場面よりも、拗ねていじけた姿を見せるほうが、愛の深さが見える…という大空祐飛の個性、活かしまくりです。
でも、かつてスコットがゼルダに見せたような「相手を傷つける事で、自分がもっと傷つく」という印象を受けなかったのも、面白いところでした。
映画の雰囲気を意識したのか、単に過去の演技との重複を避けたのか、リックは全然そういうキャラじゃないのか?ちょっと判別が付かなかったですけど。
イルザは大劇場の初期の頃は、リックの意地悪に傷ついて走り去るという芝居だったと思うのですが、東京で気付いた時には変わっていました。
リックの愛と傷の深さ、自分のした事の意味を知ったイルザ、という芝居に変えてくれて。すみ花ちゃん、ありがとう!と思いました。やっぱり、リックの心が伝わってなければ、可哀想ですもの。
それから翌日のバザールの場面にも変化がありましたね。「ごめんなさい、正直に全て話すべきだった」という台詞に、リックの傷の深さに対する申し訳なさのようなものが、どんどん深くなっていたように思います。こんなふうに、お互いの芝居が深まる程に、その変化に対応して変わっていけるコンビ、やはり奇跡の出会いかもしれません。
さて、長くなったのでこれくらいで…。
あと、どのくらい続くのか、不明ですが(^^ゞ
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