宙組大劇場公演「カサブランカ」見てきました。
初日から三日間。感動の三日間でした。

浮かれ騒いでぐったりして帰ってきたら、大浦みずきさんの訃報が。
冷や水をかぶせられた気がしました。世の中、人の力ではどうにもならない事が沢山ある。決して、取り返しのつかない事が。
なつめさんの舞台、私はナマで見た事がないのです。いつか、そのうちにと、思っていたのに。…いつかは、なくなってしまった。
CSで過去の宝塚作品を見る度に、現役の頃に見ていたら絶対にファンになってると思う方の筆頭で。何故に私はこの時代に宝塚を知らなかったのか悔しく思わせる方。
なつめさんの踊りは、手を上げるだけでも、脚を上げるだけにも、指先のほんの少しの動きにも哲学というか、精神的というか思想のようなはっきりしたものを感じて感動していました。もはや、過去の映像で見る事しかできなくなってしまって、本当に残念です。ご冥福を、心よりお祈りしています。

さて、一応、記録として。
宙組「カサブランカ」は、期待以上の秀作。
さすが、小池修一郎。天才、ここにありという感じ。
映画の「カサブランカ」は、リックとイルザの二人のパーソナルな恋物語という印象が強い気がしていたのですが。今回の小池版は、映画をきっちりとそのままミュージカル化したものでもあり、第二次世界大戦という巨大な歴史の動き中の人々の物語として、壮大なミュージカルとなりました。なんといっても、宙組のコーラスの凄さで押しまくる、力強い群集の場面が素晴らしい。
そのせいもあり、作品を見ている間は、お披露目公演として…というよりは「大作ミュージカル」の初日を、息をのんで見守る心持ちでした。
勿論、お披露目を迎えたファンとしては「主役って、こんな事も、あんな事もして貰えるんだ(*_*)」という、驚きや喜びを感じながら見ていましたが。
オオゾラさんも、トップお披露目初日…というより、少ない時間で組子の皆さんと必死で作り上げてきた大作を世に問う、お披露目の日という印象。
博多座初日のような、一杯一杯な感じも無く、堅実に初日をこなしているように見えました。…翌日以降に急速に良くなる舞台を見て、やっぱり緊張してたんだなーとも、思いましたが^^;

しかし、フィナーレも滞りなく進み、主演コンビ大劇場初のデュエット・ダンスにて、しみじみと涙が。
優しく幸せそうに微笑みあって踊るお二人が、あまりにも、美しくて。「良かったね、オオゾラさん」と、ただそれだけを思いました。
そして、エトワールのりりこちゃんのすんばらしい美声が響いて、パレード。オペラグラスでお顔も見たいが、頑張った皆さんに大きな拍手を送りたい!…と、毎回もどかしく思います。
まさこちゃん、やっぱり素敵だわーとか、ともちん一人降りだ!とか、みっちゃんは羽は無いんだ…とか、らんとむさんの純白の羽がとても綺麗だとか思っているうちに。
すみ花ちゃん、お衣装も髪型もなんて可愛いの!すみ花ちゃんのスタイルや、ラインの美しさをいかした綺麗なドレス、そして大きな羽。こんなに素敵な相手役さんと組んでいただけてファンは幸せです。
そして、舞台に全員が揃ったところで、オオゾラさんの登場。
宙組の皆さんの、暖かくて優しい、純粋な笑顔に迎えられて。巨大な羽を背負って。あの大きな舞台の真ん中に、笑顔で立っている。
思わず舞台全体をぐるっと見廻して、真ん中というのが、どんなに真ん中であるかを確認しました(^^ゞ
やっぱり、泣いちゃいましたね、いくら普段あまり泣かない私でも。
幸せの涙って、人の幸せを祝って流す涙って、なんて気持ちの良いものなんだろうと、改めて知りました。
本当に良かった…。やっと、正式に始まった「宙組トップ」期間、更に幸せなものとなる事を祈っております。


作品やそれぞれの出演者について。
初日はただ夢中で見ていたんですが、回数を重ねるごとに発見が多い作品です。
とても立体的で、多くの登場人物がそれぞれの人生のドラマを持って、一つの場所に存在している瞬間を切り取った作品。だから見る角度によって見える景色が違って見えてくるし、今後もドラマはより深くなってくる事でしょう。
世界は緊迫した情勢で、舞台にいる全員が命を脅かされているなかで、人は、どう生きるのか。
映画とは違い多くの出演者が舞台にいる宝塚で、丹念に、混乱した「カサブランカ」に生きる人々を描いています。みんなが集まるリックのカフェには、様々な人達がその人なりの立場で芝居をしているので、どこも見たい。目が足りないですね。

そんな、世界が崩壊するかもしれない中、恋にジタバタする可愛いリック。
ダブルのスーツの着こなしの美しさ、ソフト帽にトレンチコートのシルエットのかっこよさ。シガレットケースからタバコを取り出し、火をつける仕草の繊細さ。
他の誰とも違う「大空祐飛」としての男役の集大成の姿。
役柄としては、今までに主演してきた同時代の人物、スコットやステファーノさんを思い出す部分もあるのだけれど、よく見てみるとかなり違う。
もとのアメリカ映画の仕草なども取り入れて、今までと違うオーバーアクションな部分もありますが、やっぱり表現が全て大きくなった気がするかな。
大劇場の主演者サイズの芝居であり、宙組の皆さんの影響もあるのか、明るくて大きな、新しい「大空祐飛」を感じました。
映画のリックのキャラともだいぶ違うイメージですね。やはり、宝塚的というか、もっと優しくてシンプルにかっこいい、普通にヒーローっぽくなっていると感じました。
映画のボガードのリックは、本当にイヤミでウジウジした、普通の男性。決してヒーローではない、普通の男が「やせ我慢の美学」を見せる所が、魅力なんですよね。でも、今回の舞台化で描かれるリックの過去の場面なども合わせると、やはりこのリック像が必要だったのかな。
傷ついた人間が持つ、相手の傷の痛みがわかるからこその優しさが見えるのが、オオゾラさんらしくて素敵です。

イルザのすみ花ちゃんは、難しい役どころを頑張って演じてくれたと思います。
今回の舞台化では、ラズロの社会的役割などについてかなり説明されるので、イルザの行動についてもわかりやすくなったのが救いかな?
やはりこちらも、映画とはちょっと違った印象。
すみ花ちゃんのイルザは、バーグマンに比べると欧米女性のキツさや激しさが無いですし、見た目はちょっと幼い感じもあるのだけれど。中身は、自分の責任を果たそうとする自立した女性なんですね。演出的にも演技的にも、日本的な女性に近い感じがしました。
パリの別れ「世界の終わりみたいなキス」の場面、リックの背中に回された手に持った手紙を、ぎゅっと握りつぶすのが印象的。
リックが去ったあとの慟哭よりも、胸に迫ります。リックのキスが上手いだけに^^;

蘭寿さんのラズロ、イイ男ですよねー。なにげに、今回、ラズロさんはかなり好きなキャラになっています。
あんまり書くとネタバレになるけど、リックにとっての大きな壁になるという小池先生の解釈に「なるほどー」と思いました。
ラズロは完全無欠の「英雄」だけれども、その英雄であり続ける為の苦しさを、リックの存在が描き出す。そして、ラズロの存在がリックの心の鬱屈をくっきりと見せてくれて…なんとも、面白い存在です。
確かに、その二人の間にいるイルザは困ったことだろうな、と思います。
決して多くはないですが、リックとラズロの二人の場面はどれも緊張感があって、実に良いですね。すごく新鮮ですし。
時間の経過につれて、微妙に変化していく関係を、お二人は繊細に演じていると思います。対照的な二人の男の間に流れる、本人たちだけのお互いへの理解がなんとも素敵。
蘭寿さんは辛抱役だし、色々ぐっと抑えるばかりで大変だろうと思いますが、抑えた芝居がすごく好きです。今後、どんどん良くなるでしょうし、それによって作品全体が良くなっていくと思うので、期待が大きいです。

・・・さて、まだメインの三人しか書いていませんが、時間切れなので、いずれまた。
良い作品でスタートとなった事を喜びつつ、今日はこれで。

最期に、休演となった皆様の、一日も早いご回復を祈ります。
何も発表されませんが、インフルエンザの疑い、でしょうか。皆さん、結構目立つ場面を持っているので、悔しい思いをなさっている事と思います。代役にたたれた方も大変でしょうね。やはり、花・月と休演者の続くなか、いつでも代役に立てるように、心の準備はしていらっしゃるのでしょうか。エリザのような代役でのお稽古までは無いかもしれませんが…。
ともかく、これ以上、被害が広からない事を祈っております。

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